「横溝正史少年小説コレクション③夜光怪人」(横溝正史)

読み比べが面白い作品集となっています

「横溝正史
  少年小説コレクション③夜光怪人」
(横溝正史)柏書房

新聞広告として載せられた
殺人予告。狙われたのは
宝石王と呼ばれる男。
そして命を狙うのは
広告主・鉄仮面。
その秘密を探った記者を、
鉄仮面は鮮やかな手口で葬る。
後輩を無残にも殺害された
三津木俊助は、
事件解決に乗り出す…。
「幽霊鉄仮面」

柏書房刊「横溝正史少年コレクション
③夜光怪人」を、
ようやく読み終えました。
①②は金田一耕助登場の作品でしたが、
本書③から④⑤までは
三津木・由利コンビが
活躍する作品群です。
執筆年としては
こちらの方が古い作品が多いため、
横溝がジュヴナイルの在り方について
試行錯誤していたあとを
読み取ることができます。

特に「幽霊鉄仮面」は、
横溝初のジュヴナイル長編です。
「スパイ大作戦」かと思えば
「漫画的展開」が続き、
さらには「冒険スペクタクル」へと
変遷し、よくわからないまま
終了するという、
ハチャメチャな作品となっています。

なお、本書収録の原典版は、
角川文庫版との大きな違いは
ないようですが、
角川文庫版は、原典版の最後の数行が
カットされたため、
尻切れトンボのような
終わり方となっています。
本書収録版は掲載雑誌に立ち返り、
終末を復元させているところが
注目すべき点といえましょう。

黒木探偵・三津木俊助・
御子柴少年の三人は、
超一級の宝物「人魚の涙」を
見張っていた。
正体不明の盗賊・夜光怪人が
それを狙っているという
情報を得たからである。
深夜の展示会場に
怪人が現れたものの、
三人は取り逃してしまい…。
「夜光怪人」

一番の問題はこの「夜光怪人」です。
角川文庫版は山村正夫の編集の結果、
金田一耕助
事件に乗り出しているのですが、
実は三津木・由利コンビ
登場する作品だったのです。
原典版と山村編集版との差異の
最も大きいのが本作品なのです。
こうして原典版を読むと、
山村編集版はつじつまの合わない部分が
目立ちます(こちらの記事を参照)。

警察の手が回り、
サーカスの舞台から大胆にも
逃亡する栗生道之助。
彼は今世間を騒がせている
怪盗どくろ指紋だというのだ。
「どくろ指紋」とは
三重渦巻きの特殊な指紋を
名刺代わりに遺す怪盗。
だが、道之助と接触した
美穂子は…。
「怪盗どくろ指紋」

短篇「怪盗どくろ指紋」は、
江戸川乱歩の「悪魔の紋章」と同じ素材
(三重渦巻き指紋)が使われています。
そちらと読み比べると
面白いかもしれません。

国家的発明を為した
柚木子爵の屋敷で
催される仮装舞踏会。
しかし、その発明を、
怪人・金色蝙蝠が
狙っているという。
柚木子爵はその怪人の仮装で
登場するが、もう二人、
金色蝙蝠に扮した人物が現れる。
そのとき由利・三津木は…。
「深夜の魔術師」

有名なお金持ち・柚木氏邸で
催される仮装舞踏会。
そこで公開される
宝物・宇宙の王冠を、
怪人・金の蝙蝠が
狙っているという。
柚木氏は
その怪人の仮装で登場するが、
さらに二人の怪人が現れ、
舞踏会は混乱する。
怪人の正体は一体…。
「深夜の魔術師(未完成版)」

紳士泥棒として噂された
怪盗「深夜の魔術師」が、
九年ぶりに現れたという。
しかしその手口は、
以前とは異るものだった。
「深夜の魔術師」の偽物の暗躍を、
作家・風間新六は疑っていた。
そんなとき、怪盗の予告状が
木下伯爵に届き…。
「深夜の魔術師(未発表原稿)」

この「深夜の魔術師」三作品の変遷が
面白いところです。
「深夜の魔術師」は、
のちに「真珠塔」に改作されるのですが、
その過程こそ、
横溝の思考をたどることにつながり、
読み比べが面白く感じられるはずです。
ちなみに成立過程は
①「深夜の魔術師(未発表原稿)」
 (執筆年不明)
②「深夜の魔術師」(1938年)
③「深夜の魔術師(未完成版)」(1950年)
④「真珠塔」(1955年)となります。

その女の命は眼にあった。
いくらか碧味をおびた瞳は、
深淵のようにすんで、
まじまじと物を見つめるとき、
対象となるものを、
そのまゝ瞳のなかへ吸いとろうと
するかのようであった。
その女はいつも悲しげであった。
三ヶ月の…。
「死仮面された女」

この作品のみ
ジュヴナイルではありません。
わずか8頁の未完成作品なのですが、
同じ柏書房から刊行された
「由利・三津木探偵小説集成」から
取りこぼされた作品であり、
注目に値します。

今回も新しい発見の多かった
横溝正史少年小説コレクション」です。
すでに「④青髪鬼」も発売になりました。
まだまだ楽しみは尽きません。

(2021.10.3)

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